2022年01月16日

“MMT=バラマキ”という思い込み


■MT(貨幣理論)とMMT(現代貨幣理論)の違い

 世間における「MMT」に関する意見(主に批判的な意見)を見ていると、リベラル系はもとより、保守系の人々ですら、大きな誤解をしていることに驚かされる。政治的な意見は真っ当でも、お金のことになると、既存の経済理論がバイアスとなって、全く筋違いなことを言っている著名人も多く見られる。

 彼らに共通しているのは、“MMT=バラマキ”という強い思い込みがある点。「MMT」というのは、その言葉(現代貨幣理論)通り、単なる理論であって、バラマキとは直接的には関係がない。その具体的な実践行為(財政出動)がバラマキに見えるというだけであって、必ずしも「バラマキ」を意味しているわけではない。

 「MMT」批判論者達は、結局のところ、MT(貨幣理論)MMT(現代貨幣理論)の違いが解っていない(混同している)のではないかと思われる。

 貨幣とは本来、貨幣自体に価値が有るものだった。昔の貨幣が「金」や「銀」で出来ていたことは周知の事実であり、それは、お金自体に物理的な交換価値が有ることを意味していた。

 しかし、現代の貨幣(紙幣)は、ただの紙切れか数字に過ぎず、それ自体には物理的な価値はほとんど無い。言わば、信用で成り立っているのが現代の貨幣の正体であるということ。「過去のお金」と「現代のお金」の違いを正しく認識していないと、恥ずかしげもなく、的外れな意見を言うことに繋がってしまう。

■MMT(現代貨幣理論)は「信用創造」システム上でしか成立しない

 かつてのMT時代にあって、MMT(現代貨幣理論)は通用するかというと、通用しない。「現代(の貨幣)」であるからこそ、MMT(現代貨幣理論)は成立する。

 銀行は誰かから借りたお金を、借り入れた範囲内で貸し出しているのではなくて、借り入れたお金の10倍以上の金額を貸し出すことができる。所謂、「無いものを貸して実利を得る」というもので、例えば、100万円を10回払いのローンで貸し出したとしても、1回目の10万円が返ってくれば、実質的には損をしない。元々、9割以上が無かったお金なのだから当たり前。良くも悪くも、これが現代貨幣の「信用創造」というものである。

 MMTは、その「信用創造」システムが成立している現代だからこそ成り立つのであり、信用創造が無かった時代では成り立たないという制約がある。この制約の有無を理解していない人が、「MMTはバラマキだ」「MMTは詐欺だ」と言っているだけなのだが、彼らは、現代の金融システム自体が詐欺的なシステムだということには気付いていないのかもしれない。

 世界中の国が信用創造を行って経済を運用している中で、日本だけが信用創造を否定して経済を運用すればどうなるか? 答えは、日本だけが没落して貧乏国になる。実際、この30年間、日本だけが経済成長していないことが、その証拠だとも言える。
 それでも、銀行の信用創造は無条件に受け入れているわけだから、信用創造を否定していると言うよりも、単に、お金を増やすことに罪悪感を刷り込まれているだけかもしれないが。

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posted by 自由人 at 20:18 | Comment(4) | 経済
この記事へのコメント
はじめまして。
とても勉強になるブログだと感じましたので、これから読ませて頂こうと思っています。
私もブログをしていますが、私も経済について興味があります。
自由人さんのブログを読んで考えに深みを持てたら良いなと思います。
また、それをさらにブログにいかしていこうかと。
Posted by 小林広樹 at 2022年01月17日 15:50
>>言わば、信用で成り立っているのが現代の貨幣の正体である

貨幣という「ある種の兌換性の高い財」が『信用』で成り立つのは、金銀銅の時代も、今のデジタルデータ、仮想通貨の時代も変わりません。
今回の記事は、全体として「貨幣の信用を担保しているのは貨幣である」という話をされているように感じます。
これは循環論法的というか、詐術的というか、そういう話をされています。
銀行の自己資本率が法で定められているのは何故でしょうか?(MMTやバラマキ論に拠れば自己資本比率を定める必要などないでしょう)
個々の銀行の信用を担保しているものは何でしょうか?
個々の銀行の信用を担保している日銀の信用を担保しているものは何でしょうか?
個々の銀行の信用を担保している日銀の信用を担保している国民の財は何でしょうか?
丹念に信用のチェーンを追っていく必要があります。
経済学者でMMTを推している人がほぼいない理由は、そのチェーンを追っていけば、その循環性・詐欺性に嫌でも気づくからでしょう。

記事で言及されている通り、MMT=バラマキではありません。
MMT自体は「通貨発行権を持っている政府はいくら通貨を刷っても破綻しない」というだけの話です。
食糧が100、1:1で交換可能な貨幣が100存在する社会を仮定しましょう。
その政府が、貨幣を1000に増やしたとしましょう。
――――それで食料が1000に増産されるようになるでしょうか?
人々が食料生産を増やそうとする動機になるでしょうか?
貨幣によって自動的に土壌が改善され品種改良がなされ、ということが起こるでしょうか?
MMTの通り、破綻はしません。単に食糧と貨幣の交換レートが1:10になるだけです。
でも、その「破綻しない」に意味はあるでしょうか?
MMTは意味のない話で、かつ、バラマキ論者に悪用されやすい意味では害悪な論理だと思います。

日本が経済成長していないのは貨幣を刷っていないからではありません。
むしろ、量的緩和をしても成長が見られなかったことこそ、その証拠だと思います。
成長の結果として、貨幣の流通量を増えた・増やしたが成長国での実際でしょう。ブログ主は、信用・成長における、原因と結果を取り違えているように見受けられます。
Posted by 財政猫 at 2022年01月18日 02:20
小林広樹様

コメント有り難うございます。

最近は経済関連の記事よりもコロナ関連の記事が多くなっていますが、宜しくお願いいたします。
Posted by 管理人 at 2022年01月18日 19:42
財政猫様

>銀行の自己資本率が法で定められているのは何故でしょうか?

 BIS規制で決められています。日本で決めているわけではありません。

>経済学者でMMTを推している人がほぼいない理由は、そのチェーンを追っていけば、その循環性・詐欺性に嫌でも気づくからでしょう。

 MMT以前に、金融システムが詐欺だということがバレてしまうので、いろんな意味で具合が悪いのでしょう。

>むしろ、量的緩和をしても成長が見られなかったことこそ、その証拠だと思います。

 量的緩和だけで財政出動をしなかったことが成長できなかった大きな原因だと思いますが。

>バラマキ論者に悪用されやすい意味では害悪な論理だと思います。

 それは確かにその通りかもしれません。
 私自身はMMTを礼賛しているわけではありません。記事内でも少し触れましたが、現代の詐欺的な金融システムの中では、それを無視すると余計に被害が大きくなるということを述べています。
 日本だけが真面目に緊縮財政をしたところで、他国(アメリカなど)がインフレになれば、その影響で日本も物価が高騰してインフレになるのであれば、なんのために、日本だけが我慢しているのか分からなくなりますから。詐欺的なシステム内にあっては、その詐欺的なシステムを逆に利用する(言わば苦肉の策)ぐらいでないと、現代の経済運営はできなくなっているということを遠回しに述べているわけです。
 少し例が悪いかもしれませんが、核武装している国と核武装を否定している国の関係に近いかもしれません。日本だけが核武装を否定しても、世界中の国々が核武装を止めないのであれば、それがいくら正しいことであったとしても、最後に困るのは日本になるという理屈です。
Posted by 管理人 at 2022年01月18日 19:55
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